INTRODUCTION


声をあげよう
自分を変えるために
世界を変えるために――



日本・フィリピン・シンガポール合作映画『ブルーイマジン』は、現代の東京・巣鴨を舞台に、女性たちの信念と連帯と葛藤のドラマを描いた、青春群像劇です。


 タイトルの「ブルーイマジン」は、劇中に登場する架空のシェアハウスの名前。ここは、さまざまな形の性暴力、DV、ハラスメントに悩まされる若き女性たちに寄り添い、トラウマを救済するための駆け込み寺。この場所に集まった女性たちが、勇気をふりしぼって連帯し、力を合わせて沈黙を破り、自分と世界を変えるために声をあげようと葛藤する物語が展開します。


 監督は、本作がオリジナル長編映画初監督となる松林麗。俳優として、主演映画『飢えたライオン』(2017年)がロッテルダム国際映画祭、東京国際映画祭などで上映され、映画界のセクシャルハラスメントに立ち向かう長編オムニバス映画『蒲田前奏曲』(2020年)では初プロデュース兼出演を務めました。


 脚本は、短編映画『ブレイカーズ』(2017年)や『蜘蛛』(2020年)などで映画監督としても注目を集めている俊英・後藤美波。第53回ロッテルダム国際映画祭Bright Future部門に正式招待された本作は、気鋭の女性作家たちが連帯して現代社会に対する鋭利な問いを投げかける、意欲作です。


 主人公は、駆け出しの俳優志望・斉藤乃愛(のえる/山口まゆ)。彼女は、過去にある映画監督から受けた性暴力被害のトラウマを抱えながら生きていますが、そのことを誰にも打ち明けられずにいました。しかし、「ブルーイマジン」に集まる女性たちと心の痛みを分かち合いながら連帯することを通じて、初めて自らの過去のトラウマと向き合えるようになっていきます。


 そして、自分のためだけではなく、他の性暴力被害者たちと力を合わせて立ち上がることを決意し、声をあげるのです。


 勇気をふりしぼって自らの信念を行動に移す主人公・乃愛(のえる)を演じるのは、山口まゆ(『樹海村』)。乃愛の親友でミュージシャン志望の佳代を川床明日香(『沈黙のパレード』)、佳代と音楽ユニットを組む友梨奈を北村優衣(『ビリーバーズ』)、「ブルーイマジン」に駆け込む俳優志望の凛を新谷ゆづみ(『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』)、乃愛の兄で人権派の弁護士・俊太を細田善彦(『海辺の映画館キネマの玉手箱』)が演じるほか、フィリピン映画界からイアナ・ベルナルデス(『メタモルフォシス』)、ステファニー・アリアン(『PLAN75』)らも参加し、国際色豊かな共演陣が映画に華を添えています。

 

2017年に、米国・ハリウッドで女性俳優たちが性暴力被害を告発した #MeToo運動のはじまりから7年余りが経過した現在、日本でも映画やテレビ、演劇界といったエンタテインメント業界だけでなく、一般企業や政界、自衛隊など、さまざまな分野で増加の一途をたどっている性暴力被害のカミングアウトが、社会問題化しています。


今回、私たちは『ブルーイマジン』という作品で、そのような世界情勢と時代の変化を敏感にとらえ、いち早く映画という芸術に昇華したい。そして、長らく沈黙という壁に閉ざされ、未来の自分を人質に取られ、声をあげることすら封じられてきた“性暴力被害者が抱えている葛藤の真実”を描くという、本作のステイトメントを伝えたい。


そのメッセージを通じて、世界に勇気と希望を与えたいと心から願っています。


女たちの聖戦は、まだ始まったばかりなのですから――。